[特集2]思わず口ずさむ!頭から離れない!中毒になる…きっびだーん、きびきびだーん
中毒になる脱力ラップチューンの秘密を 「水曜日のカンパネラ」サウンドプロデューサー Kenmochi Hidefumi氏に聞いてみた!

【水曜日のカンパネラ】2012年夏に活動開始。ボーカルのコムアイを中心に、暢気でマイペースな音楽活動等を行う。サウンドプロデュースにKenmochi Hidefumi氏、その他、何でも屋のDir.F氏が、活動を支えるメンバーとして所属。

アイドルとかちょっとな…

—「水曜日のカンパネラ」を始めたきっかけ、ラップの曲を作り始めたきっかけについてお聞かせください。
  水曜日のカンパネラを始めるまでは、ずっとインストの(歌のない)クラブミュージックのような音楽を作っていたのですが、2011年の震災のときに、自分の作ってる音楽って無為だと痛感して、音楽を作る気があんまりしなくなってしまい…。

  でも、そのときに「ももいろクローバーZ」を見て、めちゃくちゃ元気になったんですよ。それまでJ-POPを熱心に聴く人間じゃなかったんですけど、どっちかというと「アイドルとかちょっとな…」と思ってたんですけど、「こうやって人は癒されて、力を貰っているんだな」というのを知って、素晴らしいと思って(笑)。それで、自分も人を元気づけるようなものを、もうちょっとやってみたいなと思うようになりました。それで、2012年に「水曜日のカンパネラ」の活動を開始しました。

  カンパネラは、最初の頃、色んな曲を試していたんです。ちゃんと歌を歌ったり、しんみりとしたアンビエント調の曲もあったりして。で、ファーストアルバム『クロールと逆上がり』(2013年)に入っている『お七』と、その次のアルバム『羅生門』(2013年)に入っている『マリー・アントワネット』。この二つの曲が、結構、初期の頃に上手くラップソングになって、この線が面白いかもねってなりました。

脳が処理しきれない中毒性

—「中毒性の高い脱力ラップチューン」の秘密を教えてください。
  なにより、音楽の構造自体が中毒性を持つように作っています。カンパネラの曲は、イントロ、Aメロ、サビっていう作り方じゃなくて、クラブミュージックのように、イントロから始まって、イントロの繰り返しからそのままサビに行って、また静かになって終わりみたいな。なだらかな山のような構成で作られています。その繰り返しが一つの中毒性を生み出していると思います。

  あと、カンパネラの曲は、ちょっと速いんです。テンポが速いと言葉を追いきれなくなって、特に、ラジオとかでかかったときには、一回じゃ全部拾いきれないんですね。言葉が脳で処理しきれなくなるんですけど、その中から好きなキーワードが一つグッと入ってくる。あれがたぶん気持ちいいのかなって。

  それと、音楽の良いところは、処理しきれなかったらもう一回聴くことができるんです。本とか映画とかは、よくわからなかったらそれで終わりですけど、音楽の場合は短いからもう一度聴くことができる。「何だったんだ?」と歌詞カード見て、「こんなこと言ってたのかー」と。そういうプロセスを踏めるんです。

僕らの曲にはメッセージがない

—曲名に人物の名前が多いですが、それには理由があるのでしょうか?
 影響を受けた方に、ライトノベル作家の西尾維新さんという方がいます。この人のシナリオはすごい破天荒で、歴史上の人物がオフィスで残業していたり、読んでて意外性の連続なんです。僕も、こういう「設定のちぐはぐさ」はいつも考えていて、『ジャンヌダルク』(2014年)という曲では、ジャンヌダルクが旗を振りながらバスガイドをやってたり。『ディアブロ』(2015年)でも、ディアブロは悪魔だから怖いのに、それがお風呂屋さんの番頭やってたりとか。先入観を逆手にとって、かっこいい人はショボくして、ショボい人はかっこよくしたいっていうのがあります。

—歌詞が特徴的ですが、どのように歌詞を作られているのでしょうか?
  ラップって言葉がすごく大事で、「自分はこう思っているんだ」というのを、音楽にのせて歌うんですけど、僕らの曲には、肝心のメッセージがなくて。僕じゃなくて、10才以上年齢が下の女の子(水曜日のカンパネラ主演/歌唱担当 コムアイさん)が歌うラップソングで、僕が言いたいことを言っても仕方ないし。かといって、彼女にも言いたいことがなくて。

  僕が歌うわけでもなく、彼女が書いたわけでもない歌詞を届けるためにはどうするか。むしろ、あんまり自分の感情をのっけないほうがいいのかなと。日本語で感情を消すためには、体言止めがいいんです。たとえば、「私、彼氏に振られて暴飲暴食しちゃった」となると、その人のパーソナリティが見えてくるんだけど、「マルセイユで暴飲暴食」とかは、誰の言葉でもなくなってしまう。

言葉を曲にビッチリとハメる

—歌詞には意味があるのですか?
  『ラーメンズ』という二人組のお笑いコンビがいるのですが、「ラーメンズの日本語学校」っていうコントがあります。それは、外国人に山手線の駅名で日本語を教える話で、先生が「トウキョウ、シブヤ、アサクサ」とか、色々抑揚をつけて地名を言って、生徒たちもくり返すんですよ。そのやり取りがおもしろいんですよ。「シンバシ!」ってかっこいいところだけ強く言うんですよ。それを聞いて、なんか日本語っておもしろいなって思って。意味がなくても、かっこいい言葉ってあるんだなぁと。

  あと、僕は、ラップといっても、言葉をパズルみたいにびっちりと曲にハメるんです。普通のラップは、言いたいことを言うのが先決で、間やリズムにズレがあったりするんですけど、僕の場合は逆で、テトリスみたいに、びっちり縦も横も詰めちゃうんです。ちゃんと綺麗にハマっているものって、意味はなくても気持ちがいいんですよね。ドミノ倒しとか、それ自体には意味がないのに、綺麗に理路整然とドミノが倒れていくのって、見ていて楽しいじゃないですか。言葉が綺麗にハマっているのを聴いているだけで気持ちよくなる。そういうものだと思うんですよね、カンパネラのラップソングって。

恋はベルバラ、お菓子は別腹???

—綺麗に言葉をハメるにはルールがあるのでしょうか?
  『マリー・アントワネット』という曲があって、フランスのことを歌ってるんですけれど(編注:歌詞を参照)、歌詞は「パンテオンではスイッチOFF、モンマルトル、フランス書院」とか、適当に知ってる地名を並べただけなんです。なんでもいいんです。まず、曲になるかならないかは考えずに、(音や意味で)関連する言葉を徹底的に出しまくって、語集みたいなものをつくって、そこから使える言葉を決めていきます。それで、言葉をパズルのピースみたいに組み合わせます。たとえば、10文字、10文字、10文字のリズムでいくんだったら、それにあわせて、5文字の言葉と5文字の言葉、4文字と6文字、2文字と8文字と、パズルみたいにあてハメていく(編注:下の枠を参照)。

  さらに、ここからどんどん話を脱線させていくんですよ。同じリズムで、意味がどんどん、どんどん違う風になっていく。「恋はベルバラ、お菓子は別腹、エブリバーガー、ルマンド、ちょこあんぱん」…言葉を組み合わせながらストーリーをつけ、どんどん話を脱線させて、落ちをつけて、という作り方なんです。

  こういう曲の作り方は、日本語の歌詞を完全に逆手にとっていて。よく、日本語の歌詞は共感できるのが良いといわれますけど、共感する言葉って意外と似通ってきちゃうんですよね。でも、こういうラップの作り方だったら無限につくれますよね。




釼持英郁
釼持英郁
1981年8月2日生まれ
『Kenmochi Hidefumi』ソロ名義でガットギター・エレキベース・キーボードなどの楽器演奏とサンプリングを組み合わせたインストゥルメンタルを作成。2012年ごろよりポップユニット「水曜日のカンパネラ」を始動。中毒性の高い脱力ラップチューンなどでJPOPシーンの新境地を開拓中。