現実(リアリティ)の揺らぎで問いかけるデザイン
牛込陽介
牛込 陽介

Takram Londonデザイナー。2013 年Royal College of Art Design Interactions卒業。先端技術を「その技術が約束する未来ビジョン」と「ビジョンを支える文化的政治的メカニズム」の側面から観察・リサーチし、デザインによってその発見を民主化することで、未来の可能性に関する理解や議論を助けることを目的に活動している。

Royal College of Art(RCA)で「スペキュラティブ・デザイン」を学び、先端技術と社会の関係を、様々なプロトタイプ制作を通じて問いかける、デザイナー/テクノロジストの牛込陽介さんにお話を伺いました。

問題提起としてのデザイン

—東京大学で修士号(情報理工学)を取得後、ロンドンのRoyal College of Artで「スペキュラティブ・デザイン」(ありえるかもしれない世界を精密に想像・具現化するデザイン手法)を勉強したいと思った理由は何ですか?
牛込 修士の頃、いわゆるメディアアート作品をいくつか作る機会がありましたが、それらがエンタテインメントとして消費されてしまうのをもどかしく感じていました。そのとき、体験する人が意味を考え、議論するためのデザインを作ろうとしているRCAのデザインインタラクション学科を見つけ、そこで時間を過ごしてみたいなと思ったのです。RCAでの最初の1年は、テーマが与えられて、そこで語るべき問いを立て、それを表現するデザインを行うという課題を毎月のように行っていました。そのうちに、テーマとか、それに臨む態度とか、表現手法とかが何となく見えてきました。

—ご自身で気に入っている作品はどれでしょうか?
牛込 「Professional Sharing:シェアの達人」(以下PS、下図)は、よいなあと思ってます。シェアリングエコノミーと言われるビジネスとかプラットホームが、ある究極の形に達した時にどういう生活が起こり得るかを映像化したプロジェクトです。2014年に、21_21DESIGN SIGHT(東京、六本木)からコミッションを受けて制作しました。2年前の作品ですが、今でも通用する話題だし、そこで表現されている世界が、今でこそ話すべき内容になってきている感じがして、その時事性が気に入っています。また、表現としても、ちょうどリアルとフィクションの間みたいな部分が、うまく出せたのかなという気持ちです。

「Professional Sharing:シェアの達人」(2014)


リアルとフィクションの間のバランス

—ご自身で映像に出演しているのには、理由がありますか?
牛込 RCAの最初の1年間で培ったというか、苦し紛れで出てきた手法なんですけど……。毎月あるプレゼンテーション、もちろん英語で話さなきゃいけないんですが、事前に自分がキャラとして映像を撮っておいて見せると、割とすんなり意味が通ったんですよ。それに、自分だとアドリブで想像した世界の「普通」がどんどん出てくるので、他人に頼んで演じてもらうよりも楽というのがあって。PSでは、カメラマンがインタビュアーだったんですけど、すごく好奇心が旺盛で、「これってどうなってるんですか」とか「ちょっとここ入ってみましょうよ」とか、ガンガン突っ込んできてくれて、その度にアイデアが出てきて、その場で世界が出来上がっていく感覚はすごく面白かったですね。

—想像した世界で演じているときはどんな感覚でしょうか?
牛込 現実世界とのギャップはあるにはあるんですけど、100年後の魔法のようなテクノロジーの世界の話をしているわけじゃなくて、一瞬若干のズレがあるだけです。だから、演じる自分と現実の自分とのギャップは意外とありませんね。むしろ、想像の世界を伝えるためのデバイスとしてキャラクターがいるので、演じる必要性はそこまで感じたことがないです。

—見ている人はどのように反応しますか?
牛込 個人的な体験を通して、リアルとフィクションが見る人に与える印象について何となく分かってきました。全くリアルなものを提示すると、瑣末なところに目が行ってしまって、本当にリアルに作り込まれたプロダクトでも「そのデザインはうちの家具にフィットしないから、こういう世界はない」みたいな議論になってしまう。一方で完全にフィクションに振ってエンタテインメントになっちゃうと「これは面白いよね、ハハハ」で終わっちゃう。どちらも話したい方向に行かないんです。リアルかフィクションか分からないくらいだと、そこで起こってることをもう少し抽象化された現象として、自分の生活にあることとして想像しやすくなるのではないかと思っていて、そのバランスは常に気をつけるようにしています。

>>>牛込さんの作品はウェブサイトで見ることができます。 http://www.yosukeushigo.me/ja/